失敗を成長のチャンスに変えるには?
挫折した時は、親のフォローが大切
僕は小学校の2年生のとき、そろばんを習いに行ってました。
しかし、その頃の僕は外で遊ぶこと、特に野球が大好きな少年でした。毎日のようにボールとバットを持って、近くの広場で野球をして遊んでいました。そんな遊び中心の子どもだったので、教室にこもってそろばんを習うことなんてまったく興味がありませんでした。
だから、そろばん教室に通っていても、先生の話はまったく聞いていなかったし、そろばんの練習も全然しない…。ただ、教室の机に嫌々座っているだけで、友達とおしゃべりばかりしていました。
そうこうしているうちに、初めての検定試験を受けることになりました。しかし恐ろしいことに、僕はまだそろばんがまったくできなかったのです…。教室にいても先生の話をまったく聞かず、遊んでばかりで練習も一切しなかったので、どうやって計算するのかまったくわかりませんでした。でも、そんなことは先生にも親にも言えません…。だって、「いつもちゃんとやっているよ!」という顔をしてましたから。
検定試験の当日、僕は正直混乱していました。
いつもの教室なら、隣の友達の答えをすべて写せば問題なかった。そろばんを適当に弾いて、問題を解いているふりをしていれば何も問題はなかった。
しかし、今回はそんなわけにはいかない。
「どうしよう…」
「やり方がまったくわからない…」
そして、いよいよ追い詰められた僕のとった行動。それは、全問題の回答を適当に書き込むことでした。まったく計算せずに、答えを適当に書き込んだのです。僕は混乱した挙句に、そんなその場しのぎのことをやってしまったのです。
今思えば「なんてバカだったのだろう」って思いますが、あのときの僕にできることは、その程度のことでした。でも、答えを適当に書いて正解するはずがありませんよね。
その日以来、試験の結果が出ることを恐れる日々が続きました。結果が出るまでの何日間、僕は、子どもながらに心を痛めていました。
そして、試験結果発表の当日、僕は一生忘れられない心の傷を負うことになったのです。
そろばん教室に入るなり、僕ともう1人の子どもが先生から呼ばれ、全生徒の見ている前で試験が0点だったことを発表され、教室の奥にある仏壇の前で土下座させられたのです。
僕にはこのとき、何が起こっているのかよく理解できませんでした。ただ、恥ずかしいやら、情けないやら、逃げ出したいやら、泣き出したい気持ちで…。僕たち2人は、みんなの前で先生に恐ろしくののしられました。内容は覚えていませんが、先生のすごい形相だけは今でも脳裏に焼きついています。
この検定試験、たしかにとっても簡単なもので、普通に習っていれば、まず落ちるようなことはないのです。しかし、僕ともう1人の生徒は0点だった。つまり、まったく、やってなかったのです。
試験に落ちることぐらい、適当に答えを書いた僕が一番よくわかってました。そして、試験発表の何日も前から心を痛めてました。しかし、この先生はその小さな心に大きな釘を打ちつけ、とどめを刺したのです。
そのときから、僕はそろばんがトラウマになりました。そして、この事件のことをずっと恥ずかしく思い、そろばん教室に通うのがさらに嫌になり、自信をなくしかけていました。
ただ、このとき救いだったのが、僕の母が、僕のことをいっさい叱ったり、責めたりしなかったことです。そして、僕のそろばんが嫌いだという本当の気持ちをしっかり聞いてくれたのです。
「お前にはそろばんが向いていないんだね」
「まあ、別にそろばんができなくったってどうってことないしね」
「そんなに嫌いならやめようか」
と言ってくれたのです。僕の心は、母のこの一言で大きく励まされました。先生にののしられ、みんなの前で恥ずかしい思いをし、完全に自信をなくしかけていた僕の心に明かりが灯りました。
その後、僕はそろばんを辞め、相変わらず外で自由に遊んでいました。小学校3年生の途中からは大好きな少年野球に入って、無敗の伝説チームのレギュラーになったのです。
あのそろばん教室での事件のとき、もし、母からも責められていたとしたら、僕の心はどうなっていたでしょうか。たぶん、一生引きずるような心の傷を受けたに違いありません。しかし、僕は母の言葉で救われました。
「なんだ、そろばんできなくったっていいんだ♪」と安心することができたのです。
本当のところ、母もすごく混乱し、「なんでうちの子はこんなに出来が悪いの?」って思ったに違いありません。
しかし、母なりに必死でその気持ちを抑え、僕の心を傷つけないように励ましてくれたのだと思います。結果、あの教室での先生の怖い形相、恥ずかしさ、やりきれない気持ち、今では笑い話です。しかも僕は、そろばんは今でもできませんが、計算はけっして苦手ではありません。
一生の傷になるか、笑い話になるか!
この差は大きいですよね。だからこそ、親は子どもが失敗したり、落ち込んだり、問題を起こしたときは、しっかりと気持ちを受け止めて励ましてあげることが大切なのです。
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