脳に刺激を与える遊び
脳の成長には触感も大切
お正月と言えば、コマ回し、凧揚げ、書き初めなど、今では懐かしい遊びがありました。
昔の遊びには、今のゲームにはない、脳への刺激が含まれています。
例えば、コマ回し。
経験がある人も多いでしょうが、コマを長く美しく回すにはかなりのコツが必要です。
コマの斜面に、紐を巻き付けるのでさえ、手の器用さが求められます。前回の記事に書いた「ファインモータースキル」です。
テレビゲームしかしていない子どもは、紐さえ最後まで巻けない子どももいるのではないでしょうか。
紐は、力を入れすぎると、途中で斜面をすべってしまい、それまで巻いた紐が崩れてしまいます。かといって弱く巻き付けたのでは、コマがうまく回りません。
紐が巻けたら、今度は投げるのですが、これがさらに指先だけでなく、手首や肘関節の動きが上手いほど、コマは上手く回ります。
手首や肘関節の動きは、座った状態では、固定されてしまう活動が多いのが特徴です。
本を読むのも、鉛筆や箸を使うのも、ピアノを弾くのも、ゲーム類も、手首と肘は、ある程度固定していることが多いのです。
この様な意味で、昔の遊びは器用さを身につけるためには最適な教材と言えます。
しかし何よりも、コマや凧揚げ、竹とんぼなどの昔の遊びが脳にいい理由は、もっと他にあります。
それは「工夫次第で上手くなることが分かる」遊びであるということです。
コマの回転は、同じコマであっても、投げた人によって様々に変化します。最初から上手にコマが回せる子どもはいません。
先生や友達が上手く回しているコマを見た後、自分のコマが無念にもまともに回らない事実を受け止め、「どうやったらもっと上手くコマが回るのか?」という疑問に向かってコマの投げ方を工夫する過程にこそ、脳の成長が隠されています。
工夫の仕方がボタン操作しかないテレビゲームとは違って、コマの投げ方の工夫というのは、指先の繊細な動きに注意を払うことから、体全体の姿勢の修正など、かなり幅広いのが特徴です。
コマを投げる強さや角度はどうか?
投げた後、手を引く速さはどうか?
足を広げた方が、手の動きが大きくなるのではないか?など、
自分で気づいたことや、他人からのアドバイスによって、工夫の幅が広がります。
つまり、テレビゲームなどのデジタルな遊びや、単純な読書と違って、コマ1つが刺激する脳細胞の範囲が広いのです。
■■■ 遊びの皮膚感覚 ■■■
このように、日本古来の遊びは、アナログゆえに、脳を伸ばす要素が多く隠されています。
もう1つ、忘れがちな要素として皮膚感覚があります。
皮膚感覚が、どうして脳の成長に関係があるのか?と思うかもしれません。
しかし皮膚感覚というのは、もちろん感覚を伸ばすために必要という他に、大人になってから重要になってくる能力だと私は考えています。
子どもの頃、特に幼児期は、抱っこしたり、揺らしたり、お母さんの手で触ったり、比較的皮膚感覚に頼ったコミュニケーションが重要視されます。
これが、子どもが走ったり、喋ったりできるようになってくると、コミュニケーションの軸が、目や耳を使った言語的なコミュニケーションに偏ってきます。
これ自体が悪いわけではないのですが、皮膚感覚というのは知らず知らずに大人になっても蓄積され続け、それが後に、空気を読んだり、感謝や思いやりの心を持つことと密接な関係になってくる、というのが私の持論です。
皮膚感覚は、他の感覚に置き換えることができません。それ故に、その感覚の幅が、大人になったときの心の振れ幅となって顕在化してくるのだと考えられます。
日本古来の遊びは、現代においては、皮膚感覚も刺激します。今の子どもの周りにある遊び道具を見回してみて下さい。
天然素材のものが、どれくらいあるでしょうか?プラスチックなどの人工素材が、ほとんどではないでしょうか?
何を触ってもプラスチックでは、皮膚感覚の振れ幅が非常に小さくなります。
皮膚感覚を感じる脳番地は、実はもっと高次な脳番地とつながっています。
だからこそ、皮膚感覚の乏しさは、社会性の乏しさにつながる可能性があるのです。
もちろん皮膚感覚だけでは社会性は伸びませんが、言葉に言い表せない感覚や体験が、受験やテストでは測りきれない子どもの幅広さを創るのだとすれば、遊びの中で自然素材の幅広さに触れさせてやりたいのです。
そういう意味で、コマや竹とんぼ、凧などの素材にはプラスチックで作られるおもちゃとは違った魅力があるのは確かです。
子どもの脳には「リアル感」が絶対に必要です。テレビの中で起きているだけの出来事では足りないのです。
だからこそ、触ることで、遊びの工夫を考えるという次のステップへ進むことができるのです。
昔ながらの遊びは、素材も経験も「リアル」であるからこそ、脳を育てるエッセンスが詰まっているのです。
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