第1回 忙しい朝だからこそ、やるべきこと
これは、放課後児童クラブの指導員をやっている知人に聞いた話です。
毎日、放課後に児童クラブへやってくる女の子がいます。Aさんというのですが、彼女には、日によってとても落ち着いて過ごせるときと、そうでないときがあります。
落ち着いているときは、友達と仲良く楽しく過ごせます。そうでないときは、些細なことでイライラして、友達とのけんかが多くなります。
Aさんを毎日見ているうちに、その指導員さんはあることに気付きました。落ち着きのある日は髪の毛をきちんと三つ編みにしていて、落ち着きのない日は髪の毛がぼさぼさなのです。
指導員さんはその違いに気付いたことで、Aさんへの細かい対応ができるようになりました。つまり、彼女ががぼさぼさ頭で来る日は、できるだけ話をたくさん聞いてやり、抱きしめてやります。または、できるだけそばにいてあげるようにしたのです。
その結果、彼女の気持ちは落ち着き、友達とのけんかも防ぐことができるようになりました。
指導員さんは、このことをAさんを受け持つ担任の先生に話したそうです。すると、先生も気が付いていたとのことで、教室でも全く同じような表れが見られるので、とても心配していたそうです。
ある日、指導員さんは児童クラブにお迎えに来たAさんのお母さんにそれとなく話してみたところ、次のことが分かりました。余裕のある朝は、お母さんはAさんの髪をきちんと三つ編みにしてやるそうですが、余裕のない朝はそれができないということです。
指導員さんは、自分の気付いたAさんの変化をお母さんに話しました。すると、お母さんはとても驚いたそうです。朝、自分が三つ編みにしてやるかどうかで、彼女にそれほど大きな違いが出るのです。お母さんにしてみれば、「三つ編みにしてやれば落ち着いて生活できるだろう」などと考えてやっているわけではないのです。
話のあと、お母さんは「これからは毎日、三つ編みをして送り出したい」と言ってくれたそうです。
ところで、このような親との些細な触れ合いが、子供の気持ちに大きく影響を及ぼすということは、本当によくあることです。児童クラブ、幼稚園、保育園、学校、塾などのような子供に関わる仕事をしている人たちにとって、これは共通の認識であり、基本常識の1つです。
日中、子供たちの様子を見ていると本当によく分かります。でも、そのような立場にない多くの人たちには、実感として今ひとつ分かりにくいようです。子供たちの活動の様子を毎日見ることなど、子供関係の仕事をする人しかできないのですから、仕方のないことかもしれません。
ですから、もう一度強く言いたいと思います。親子の触れ合いが子供の気持ちに大きな影響を及ぼします。友達との人間関係に影響し、勉強への集中力に影響します。それが積もり積もって、その子の人間形成に絶対的な影響を及ぼします。
先ほどのAさんの場合、三つ編みにしてやっている間に、親子の触れ合いができるのです。 時間をかけ、手間をかけてやることで、親の愛情を伝えることができるのです。それが子供の心を満たします。心が満たされている子だけが、友達にも優しくできるのです。心が満たされている子だけが、勉強にも集中できるのです。
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