第14回 双方向メディアで人間関係をよくする
NHKの「プロジェクトX(エックス)」という番組が好きで、見られるときはできるだけ見ていました。 特に、技術者たちが新しい技術を開発していく姿を描いたものが好きでした。
難しい状況の中で、使命感に燃えながら、あるいは大きな夢をもちながら、必死で努力する技術者たちの姿は私の胸を熱くしました。 彼らは、家に帰る時間も惜しんで研究室に泊まり込み、寝る時間も惜しんで開発に打ち込みます。
開発に行き詰まって挫折しそうになることもあります。 それでも諦めずに、ひたすらがんばります。 そして、様々な困難を乗り越えてとうとう目的を達成します。
私は、このような技術者たちの姿を見ると、すぐにぽろぽろ涙を流してしまいます。 「よし、自分もがんばらなくては」という気持ちになることも、たくさんありました。 つい自分に甘くなりがちな私には、自分を奮い立たせる効果もあったわけです。
でも、あるとき、それまで思いも寄らなかった疑問がフッと頭をよぎりました。 この人たちの家庭はどうなっているのだろう? この人たちの子どもは大丈夫かな?
こういう疑問が急に出てきたのです。 3ヶ月も研究室に泊まり込んで開発に没頭したという話に感動しながら、その間、奥さんや子どもはどうしていたのかなと考えてしまったのです。
夢中になって没頭している本人はいいのだけれど、奥さんはどうだったのでしょうか? お父さんがいない3ヶ月もの間、お母さんは1人で子どもを育てていたのでしょうか?
もっと気になるのは、子どもはどうだったのかということです。 その間、子どもはお父さんの存在をどう感じていたのでしょうか? お父さんの愛情を感じることができていたのでしょうか? お父さんは、一生懸命働いているということが実感として分かっていたのでしょうか?
これは、大いに疑問です。 もしかしたら、大成功のプロジェクトの裏側で、静かに家庭崩壊や親子の断絶が進んでいたケースがあるのかもしれません。
お父さんは、自分のがんばっている姿や気持ちを家族や子どもたちに伝えていたでしょうか? たぶん、そんな余裕はなかったでしょう。
でも、もし、家族や子どもがお父さんのがんばっている姿を間近で見ることができれば、それはすごく大きな助けになるはずです。 ずっと昔は、お父さんが働いている姿を家族や子どもがいつも目にしていたのです。 狩りをするお父さん、米や野菜を作るお父さん、商いをするお父さんの姿が、子どもたちの目の前にあったのです。 そして、その合間に、触れ合いの時間もたくさんあったのです。
でも、今は、お父さんたちはどこか知らないところで何か知らないことをしています。 そして、家ではゴロゴロしています。 1ヶ月に1度、子どもにはなんのことか分からないけど、給与明細という細長い紙を持ってきます。 おまけに仕事が忙しいときは、なかなか相手をしてもらえません。
私は、このような現代的な状況が、親子の、特に父親と子どもの関係に深刻は影響を与えていると思います。 この頃、そのような状況を改善するために、メディアが役に立つのではないかと考えています。
例えば、お父さんが働いている様子を、家庭のメディア端末やケータイに写し出すというのもいいと思います。 このようなメディアを使えば、離れているときも、お父さんから話しかけたり、子どもから話しかけたりすることができます。
双方向のメディアをうまく使えば、家族の人間関係をよくするために役立てることができると思うのです。
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