第15回 子どもを楽しむ
2006年2月のトリノオリンピックで、荒川静香さんが金メダルを取りました。 次の日の朝、出勤した私が、自分の受け持ちの2年生の教室に入ろうとしたとき、1人の女の子がヨロヨロしながら近寄ってきました。
「先生、おはようございます」
「おはようございます。どうしたの?なんだかヨロヨロしてるけど・・・」
「フギャースケートやってたの」
「フギャースケート?」
教室の中を見ると、オルガンの前で2,3人の女の子が両手を頭の上で伸ばしながらクルクル回っています。
「ああ、フィギュアスケートだね」
「そう、フギャースケート」
そして、私が自分の机の方に行くと、今度は別の女の子たちが2,3人上体を後ろにそらして踏ん張っていました。
「なにやってるの?」
「イナバウアーやってるの」
私は、思わず笑ってしまいました。そして、思いました。
「子どもっていいな」「子どもってかわいいな」「子どもってなんて面白いんだろう」「子どもって楽しいな」
そして、なんだかとても楽しい気分になりました。
「こんな面白い人たちと今日も一緒に生活できることに感謝しよう」
「今日も1日子どもを楽しもう」
こういう気持ちになりました。
ずっと以前は、なかなかこういう気持ちになれませんでした。
以前は、「こういう指導をしなければ」とか「こういうふうに変えてやらなければ」という気持ちが強すぎました。それで、子どもたちとの生活を楽しむ心のゆとりがありませんでした。
ある時、そういう気持ちから、“子どもたちと付き合う”くらいの気持ちに変えました。それから、心のゆとりが持てるようになりました。
それと、もう1つきっかけがあります。
それは、“ある先生との出会い”です。その先生との会話を再現してみます。
「さっきの帰りの会でね、笑っちゃうよ、『あした絶対にリコーダーを持って来てください。忘れたら音楽会の練習できないからね』と言ったのよ。それで、さようならをした後で○○君が慌ててやってきてね、『先生、音楽会は急に明日になったの?お母さんに言ってないよ』ですって」
「話を聞いてないんですね」
「ねえ〜。○○君はいつも別のこと考えてて、半分くらいしか聞いてないのよ。それで、後でとんちんかんなことを言ってきておもしろいのよ」
「はあ・・・」
私は、自分ならとてもおもしろいという気にはなれないだろうなと思いました。
その後、いろいろ話を聞いているうちにだんだん分かってきたのは、その先生がいつも子どもたちを楽しんでいるということでした。
テストの丸付けのときも、子どもたちの珍答迷答を大いに楽しんでいました。子どもたちの一生懸命がんばるところも、うっかりどじるところも、その先生は、同じように楽しんでいるのでした。
それでいて、というより、だからこそ、クラスの子どもたちもしっとり落ち着いているのでした。
その先生は、まず、子どもたちの森羅万象をゆとりの心で受け止めて、そして、必要な指導は慌てず騒がずきちんとする人でした。
みなさんも、ぜひやってみてください。
子どもを楽しんでください。そうです、我が子を楽しんでください。
それは、“親の特権”です。
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