親力集中講義

第18回 『これさえやればすべてうまくいく』という方法はあるか?

子育て中の親たちを対象にした雑誌が、このごろたくさん創刊されました。 子育てや家庭教育をメインのテーマにして、様々な角度からいろいろな情報を提供してくれます。 また、そのような専門的な雑誌ではない、より一般的な雑誌でも、子育てや家庭教育を取り上げることが多くなってきました。

私も、本を出してから、いろいろなところから声をかけていただくようになり、あちこちに登場するようになりました。 そのたびに、各雑誌の編集者さんやライターさんから取材やインタビューを受けるわけですが、ときどき困ることがあります。

それは、ひたすら即効性のある方法を求められることがあるということです。 たとえば、「子どもが今すぐ勉強好きになる10の方法」、「今日からやる気いっぱいの子にする7つの秘策」、「5つのことに気を付ければ、明日から我が子が素直に言うことを聞くようになる」などです。

私も具体的な方法を考えることはとても大切だと思って、いろいろ開発してきました。 即効性のある方法もいろいろ考えてきましたし、ときにはそれがとても有効な場合もあります。 それで、私にできる限りの提案をしているわけですが、テーマによってはもっと根本的なところが大切だということもあるのです。

たとえば、「やる気いっぱいの子にする」ためには、日頃から子どもが親の愛情を実感できていることが大切です。 そして、自分という存在が肯定されていることを感じていれば、何に対しても前向きに取り組むことができるのです。 その上に立ってこそ、いろいろなあの手この手の方法も生きてくるのです。 その根本的なところがなければ、いろいろな方法を繰り出しても意味はないのです。

でも、たとえば、「今日からやる気いっぱいの子にする5つの秘策」というテーマで取材に来ている場合、私が「親の愛情を・・・」などと話しても取材の人がその話にあまり興味を持っていないと感じることがあります。

それまで具体的な方法や即効性のありそうな方法について話しているときには一生懸命メモしていたのに、そういう根本的な話になると手が止まるということがあるのです。 聞き惚れていて手が止まるのではありません。 それは、目も虚ろになっているので分かります。 そして、また、話が変わって、すぐにできそうなことや少し奇抜な話になると、目が輝いて手が動き出します。

もちろん、いつもというわけではありません。 雑誌の企画内容にもよりますし、取材者の人間性や理解度にもよります。 それで、私は、危ないなと思ったときは、念を押すようにしています。 「これは、即効性はないし当たり前すぎることですが、根本的に大切なことで絶対に外せないことだから載せてくださいね」。

ところで、あるとき、こう聞かれたことがあります。 「仕事ですごく忙しい中で、短時間で子どもとコミュニケーションが取れて、子どもの話を聞いて満足させてやって、子どもが落ち着いてなんでもやる気をもってがんばらせる方法はありませんか?『これさえやればすべてうまくいく』という方法はありませんか?」

私は答えました。 「そんな都合のいいものはありませんねぇ。あったら私が知りたいですよ。それに、もしあるなら、とっくに誰かが見つけて発表しているはずですよ」 そして、心の中で、なんと都合のいい欲張りな願いなんだろうと思いました。

すると、取材の人が言いました。 「ないですよね・・・でも、読者の方からこういう質問がけっこう来るんですよ」 それで、そのコピーを何枚か見せてもらいました。 そうしたら、それぞれの紙に、だいたい先程のようなことが書いてありました。 中には、自分の窮状を書き連ねて、その上で先ほどのような質問を書いている人も何人かいました。

私は、それらのコピーを見ているうちに、「都合のいい欲張りな願い」と簡単に切り捨てられないなと思い始めました。 そこには、今という時代で子育てに励む親たちの切実な願いが溢れてることに気が付いたからです。

時間的にもぎりぎり、経済的にもぎりぎり、当然、精神的にも肉体的にもぎりぎりな状態でなんとかやっている親たちの、いろいろな願いが溢れていたのです。 読んでいるうちに、だんだん悲鳴のように思えてきました。 忙しい親たちが手っ取り早い即効性のある方法を求める気持ちが、よく伝わってきました。

そこで、私は、改めて考えてみました。 そういう人たちがどうすればいいのかと、考えてみたのです。

「手っ取り早い即効性のある方法」は本当にないのか? 「これさえやればすべてうまくいく方法」は本当にないのか? そして、前者は見つかりませんでしたが、後者は見つかりました。 なんと、『これさえやればすべてうまくいく』方法を、私は見つけたのです。

それは、なんだと思いますか? 聞けばがっかりするかもしれません。 あるいは、深くうなずくかもしれません。 さて、あなたはどちらでしょうか?

それは、「子どもが親の愛情を実感できるようにしてやる」ことです。 つまり、一番大切な根本を実際に一番大切にして生活することです。 触れ合いやスキンシップやコミュニケーションに心がけ、がみがみ叱ったり叩いたりはしないで、感情的に爆発しないで、いいところを見つけてほめてやり、愛しみかわいがってやり、子どもが親の愛情を実感できるようにしてやることです。

そうすれば、自分という存在が肯定されていることを感じ、自分を愛せるようになります。 自分を愛せる人は、他人も愛せるようになり、人間関係もうまくいきます。 また、親の愛情を実感している子は自分に自信を持てますので、何に対しても前向きに取り組むことができます。 つまり、これさえやればすべてうまくいくのです。

どうですか? がっかりしましたか? それとも、深くうなずきましたか?

忙しいぎりぎりの生活の中でも、この一番大切な根本だけは実際に一番大切にして生活して欲しいと、私は改めて思いました。 これができていなければ、いくらいろいろなことをやってみても無駄です。

親ががんばっていろいろなことをやっている割りには、子どもは親に愛されていると感じていない場合も、実際にかなりたくさんあります。 ぎりぎりの中でも、親ががんばっていろいろな習い事をやらせて、いろいろなしつけもしっかりして、勉強も一生懸命見てやっているのに、同時に、毎日がみがみ小言を言い、しばしば感情的な爆発で叱りつけ・・・などということでは、子どもは決して親に愛されているという実感は持てないのです。

というわけで、長々書いてきましたが、まとめます。 いろいろとぎりぎりな状態の人ほど、一番大切な根本を実際に一番大切にしてほしいというのが、私の結論です。 これさえやればすべてうまくいくのです。

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